かかる時勢、疑わしきは世の通念あるいは常識として、然るべき医療機関での診察を薦め、必要に応じて治療を受けていただくのは当然である。

『鍼経』すなわち『霊枢』の「五変」において、職人が斧や鋸で木を切るにあたり、木材の堅脆の違いによって、切り易さが異なることを喩えとして、ヒトにおいてもそれは同様であると論じている。

斧や鋸を「外界から受けるウィルス」であったとしても、ヒトの強弱によってどれだけ切り込まれるか・・・すなわち病態の軽重が異なる、ということである。今にいう免疫力の強弱によって「感染」という条件が同じであったとしても、その結果が異なる、という意味である。

今般のウィルスによる肺炎を中国伝統医学の立場からは、「寒湿疫」によるものということ明らかになってきている。つまり入ってくるウィルス(邪気)の属性は寒・湿であり、非常に伝染性が強い、ということである。さらには、「新型コロナウイルス肺炎は寒熱が混じり、燥湿が錯雑し、虚実が同時に並行してみられる病理特性があり、毒・燥・湿・寒・虚・ 瘀 の特徴がある。」ともいわれている。

※舌診学の大家でもある師父・蓮風先生は「もともと気候の寒湿から起こり、転化して熱湿になったものが基本。これは舌診からも明らかだ。」としている。三因制宜によって判断が必要なのだろう。つまり寒湿疫だからといって、必ずしも皆がニンニクやショウガを摂ればよい、というわけではない。

冒頭で示したように、感染の確認、感染確定後の治療については現状ではいわゆる現代医療に委ねざるを得ない。

しかし我々鍼灸臨床家は『鍼経』や『素問』から何を学び取り、日々の臨床で何を行うべきか、は明らかである。患者さんごとに陰陽の歪み方が異なるのを踏まえ、和平ならしめておくのが本分。

喉が渇いてから井戸を掘るようなことや、戦闘が始まってから慌てて兵器を作るようなことでは手遅れであり、そもそも我々の最も重要な果たすべき本分は何か?について『素問』第2篇ですでに学んだ通りである。

襟を正して臨みたい。

 

以下、『霊枢』五変(46)抜粋

黄帝曰.一時遇風.同時得病.其病各異.願聞其故.

少兪曰.善乎哉問.請論以比匠人.匠人磨斧斤.砺刀.削斲材木.

木之陰陽.尚有堅脆.堅者不入.脆者皮弛.至其交節.而缺斤斧焉.

夫一木之中.堅脆不同.堅者則剛.脆者易傷.况其材木之不同.皮之厚薄.汁之多少.而各異耶.

夫木之蚤花.先生葉者.遇春霜烈風.則花落而葉萎.

久曝大旱.則脆木薄皮者.枝條汁少而葉萎.

久陰淫雨.則薄皮多汁者.皮潰而漉.

卒風暴起.則剛脆之木.枝折杌傷.秋霜疾風.則剛脆之木.根搖而葉落.

凡此五者.各有所傷.况於人乎.