皆様、こんにちは。
 今年もどうぞよろしくお願いいたします。

昨年5月に玄珠堂に入り、院長のもとで研修を始めてから、まもなく1年を迎えようとしています。
本日は、年末年始の過ごし方と、そこから得た気づきについてお話ししたいと思います。

今年はあえて母国には帰らず、日本に15年以上滞在していながら、これまで訪れる機会のなかった地方を巡り、大自然に触れることを私自身のテーマとして、山口県の秋吉台・青海島、そして県内でも最も古い、約600年の歴史をもつ長門湯本温泉へ、2泊3日の旅に出かけました。

数年前から、なぜか鍾乳洞巡りに惹かれるようになり、年始や冬の定番の過ごし方とは少し異なるかもしれませんが、「行ってみたい」という気持ちが自然と湧いてきました。旅の途中、友から「鍾乳洞のどんなところに魅力を感じるのですか?」と聞かれました。

その答えは、一言で云うと「広大さ」

15年以上前、約2か月間旅をしたインド北部――ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に挟まれ、標高5,000mを超える「ラダック山脈」を思い出しました。植物も育たない過酷な環境で、人が生活するには厳しい土地でしたが、大地そのものが呼吸しているかのような果てしない広がりが続いていました。

自然の前では、人はただ謙虚になるしかない――そう静かに教えられる風景は、今でも私の心に深く刻まれ、鮮明に残っています。

Ladakh (ラダック山脈):2008年に行ってきたところ。

鍾乳洞は、山脈のような外へと広がる雄大さとは異なり、地球の内部にひそむ、目に見えない場所で、数万年以上もの時間をかけて美しく形成されてきた大自然です。
まるで壮大な地球の「内面」に触れているかのような感覚を覚えながら、私たちが見ている地球の表面は、ほんの一部にすぎないのだと実感させられました。

そう感じたとき、私たち人間が日々抱えている雑念は、実に些細なものに思えてきます。
人生の短さとともに、本当に大切にすべきものは何かを、静かに問いかけられているようでした。

『気づき: 周辺視野(パノラマ視)の大切さ』

院長からよく、
「毎日、散歩しましょう」
「自然を感じ取ることが大事」
「どこかへ行く“途中”ではなく、手ぶらで散歩することが大事」
と教えていただいていると思います。

これは単に体を動かすという意味だけでなく、視野を広げ、周辺視野を使いながら、パノラマ的に世界を感じ取ることが含まれているのではないかと、今回の旅を通して改めて感じました。

《西洋の観点》

近年の神経科学や心理学の研究では、「パノラマ視・周辺視野」と「ストレスに関連する脳活動」の関係が注目されています。視野を広げ、特定の一点に焦点を合わせずに世界を捉えるとき、脳は全体的・包括的な視点に関わる部位を活性化させ、開放感や好奇心、情報を受け取る姿勢と関連するとされています。また、このような視線の使い方は、自律神経系を交感神経優位の状態から、副交感神経優位(休息・消化)の状態へ移行させることにもつながります。

広い/開いた視線 → 探求的、リラックスした、新しい情報を受け入れる状態

狭まった視線 → 目標指向、警戒的、または保護的な状態(ストレスや脅威への反応)

《東洋医学の観点》

中医学では、ストレス、あるいは「気が張った状態」は、主に「肝」の働きと深く関係すると考えられています。肝は気血の巡りを調節する臓であり、情志(感情活動)ともきわめて密接に関わっています。

また、肝は「眼」や「筋」との結びつきが強い臓でもあります。そのため、眼の不調が肝の失調として現れることもあれば、日常における眼の使い方や視野の状態が、肝の働きに大きな影響を及ぼすことも少なくありません。←これは多種多様な病に繋がります。

五行において肝は、「木」に属し、次の様な特徴があります:

  • 上へ、外へとのびやかに広がろうとする
  • 偏りなく、全体へ行き渡ろうとする
  • 滞りを嫌い、円滑な巡りを重んじる

こうした性質から、肝は全身の気血の流れを滑らかにに調え、心身の調和を保つ役割を担っています。

視線を遠くや周囲に向けることで、肝本来の「のびやかさ」が自然に引き出され、心にゆとりと穏やかさが生まれます

一方、屋内など閉じられた空間で、視線を狭くし、スマホやパソコンに長時間に集中し続けると、肝の気は内へ内へ収束し、滞りやすくなります。

その状態が続くと、

  • 気血の巡りが阻害され、
  • 情志の不安定や気の上逆(イライラ)を招く要因となります。

これは、肝は本来もつ、「のびやかに広がり、全身を調える」という働き・性質が十分に発揮されなくなるためです。

最後に

毎日の生活のなかで、ほんの少しでも散歩の時間を持ち、
今日はどのような空が広がっているのか、
雲はどんな形をしているのか、
太陽の光がどのように差し込み、影を描いているのか――。

そんなことに静かな好奇心を向けながら、
視野と意識をゆったりと広く保つ時間を、大切にしていきましょう。

「参考」

・Unwinding Anxiety, Judson Brewer  |心理学者

Huberman Lab, Andrew Huberman     |神経外科、心理学者